No.513 罪深い詩人

 

 

彼は 100%のグレープジュースと
煙草を2箱買いに行った
コンビニには ウイルス防止のために
「マスクを着用ください」と書いてあった

 

部屋にマスクを忘れてしまったので
コンビニの涼しい空気を感じながら
少し引け目を感じつつ
愛想の良い店員からトレイで釣りを貰った

 

部屋に戻ると パソコンを開いて
曲をかければ 何かが書けると信じつつ
それほど聴いていなかったアルバムを選んで
キーボードを打ってみた

 

煙草のビニールを剥がすと
微かに香りがした
彼は この瞬間がたまらなく好きだ
それから 詩の始まりを書き始めた

 

{俺が再び現れた時に
 お前の最期になると思え
 そうすれば 罪は忘れない
 いつか必ず 俺は現れる}

 

煙草の灰が落ちて
テーブルが汚れてしまったので
彼はティッシュで拭き取って
ゴミ箱に捨てた

 

{お前は食事をする時も
 俺の最後を見ることだろう
 ラストシーンは記憶に残るだろう?
 寝ても覚めても 俺は居る}

 

グレープジュースは
彼の喉に皮の渋味を貼り付けたが
それほど悪い気はしなかったので
煙草の間に飲み続けた

 

{俺は死なない
 お前は死んだと思っていても
 お前が生きる限り 俺は生きている
 忘れるな 俺は再び現れる}

 

そこまで書いたところで
彼は何を書きたかったのか忘れてしまった
(とりあえず音楽を聴こう
 煙草を吸って 喉を潤そう) と思った

 

音楽は陽気だか陰気だかわからない
外国語がわからないので
英語なのかもわからない
そんな彼は 好んで洋楽を聴いた

 

ボリュームを上げて
周りの音が聞こえなくなると
玄関のドアが開き 一人の男が入って来て
彼の部屋のドアを開けた

 

部屋に鳴り響いていた音楽を聴きながら
男は パソコンを眺める彼の背後から狙っていたが
何かの気配を察知して彼が振り向き
男を見て 笑って 撃たれて 彼は死んだ