No.560 とても居心地の良いカフェ
ブラックのコーヒーでも
大人になったわけじゃない
彼はお洒落なカフェで
アロハシャツを着てニコニコしていた
かじった林檎のマークは
よく見てみると白いインクだ
かちゃかちゃ立てている音は
彼の手の骨がテーブルに当たる音だ
アロハシャツがとんでもなく鮮やかで
彼を縁取った線が見えるほどだ
何も映っていない画面には
金髪で褐色の肌の女が2人居るだけ
彼はスマートフォンのようにも見える
巨大な消しゴムをしきりに耳に当てて
取引先と重要な会話をするように
山手線の内回り外回りを交互に唱えていた
お洒落なカフェにいる他の客は
彼を見ても気が付かないフリをした
何故なら 皆アロハシャツを着て
消しゴムと銀色のまな板で仕事をしていたから
彼は少し妙な気持ちになった
今日はやけに このカフェに居ても
場違いだと思わないような気がした
それから 彼はブラックのコーヒーをおかわりした