No.559 柱な男
彼の目の前を 大型トラックが横切った
括り付けられた柱は びくともしない
彼を此処に置いて行った奴らは
此処で彼が反省するとでも思っていたのだろうか
奴らは彼に酷い扱いをしていた
抵抗すれば暴力だって振るった
彼の目蓋の痣を見てみろ
まるで 青い月のようではないか
彼が反抗したので 奴らは道路のすぐ側にある大きな柱に
彼を括り付けて去って行った
彼は そんな状況でも呑気に構えていた
餓死するのが先か 大型トラックがぶつかるのが先か
しかし どちらにもならなかった
彼は生きたまま 道路の直ぐ側にある柱の一部になった
幸か不幸か この道路は休まない
四六時中 トラックが行き交っている
彼はそれを数えながら暇を潰した
暇で暇で死にそうだったが 暇が死因になることはなかった
奴らは とっくに全員死んでしまったので
奴らが彼にとどめを刺してくれることはない
ある日 彼の前で小さなトラックが停車した
助手席には ぬいぐるみを持った女の子が居た
運転席にいるのは 父親だろうか?
見るからに粗暴そうだと 彼は思った
女の子は 彼の方をじっと見ていた
彼も そのトラックを見返していた
その時 柱になってから初めて
身体をグラグラと動かせると分かった
女の子の瞳だけの訴えを察知して
彼はトラック目掛けて倒れた
助手席の少女は屈んだので助かったが
トラックの天井がめり込み 運転席の男は死んだ
幾つかのサイレンの後 少女の元へ駆け寄る時
母親も父親も 泣きじゃくっていた
彼が倒れ 殺した男は父親ではなかった
女の子は アイスを買って貰えると思ってトラックに乗った
女の子は繰り返し(興奮気味に)言った
「柱のおじさんが助けてくれた!」
意味のわからなかった周りの大人たちは
抱えられたぬいぐるみと同じような顔をしていた
事故現場となった彼は
バラバラになって 道路に散らばった
意識が薄れて行く中で 彼ははっきりと
女の子の声だけを聞いていた
そして あることに気がついた
彼は 頭の上に標識を載せていたのだと
彼のおかげで迷わずに走れたトラックたちを
一つ一つ 鮮明に描きながら 彼はふっと消えた