No.556 目を真っ赤に充血させた彼
砂埃が目に入ってしまい
彼は猛烈に泣きたくなってしまった
泣いたら笑われるので我慢したが
周りの連中はクスクス笑っていた
砂埃を投げつけて 笑った奴らを
泣かせてしまいたくなったが
彼にそんな勇気があるわけがないので
砂を噛んだような顔をしていた
唯一の彼の強さは 笑われたことを
数十秒待てば 忘れてしまえることだ
ただ 砂埃のことも忘れてしまうので
また泣きそうになり また笑われてしまった
彼の怒りは笑われた瞬間にだけ燃え盛り
数十秒の間に氷点下になった
彼の本当の恐ろしさは 怒りの熱さよりも
その後の冷たさにあった
冷たくなった彼は 新たな砂埃を探し始める
無意識のうちに 笑われて 怒りを感じたくなり
その感覚に溺れながら 寒暖差の渦の中で
間違いなく ひしひしと 復讐の機会を窺っている