No.390 彼をどうにかできる奴

 

 

新しい身体になって 彼は宙へと浮かび

嘘みたいに晴れた空は 太陽の穴が空いている

その穴に入ると 灼熱に焼かれて

丸焦げになった彼は 海まで落ちていった

 


それから 夢が覚めて 目覚ましを止めて

悲痛な音を立てる肩を回し 首を回し

足腰のネジを締めて 鈍重な現実を歩き

そうとも知らない犬に吠えられる通勤時間

 


電車の中で 彼はイヤホンを使い

耳の中から あらゆる考えが

飛び出さないように 必死に耐えて

会社のある駅で降りて 行き先を忘れた

 


それから それから 彼はどうなった?

「実は夢でした」はもう使い古されている

映画や漫画で何度となくやっている

彼は きっとそこからもう停止している

 


その停止した彼を再生する方法を

きっと奴は知っているだろう

しかし奴は 奴というやつは

彼を停止したまま 銅像に見立てて笑っている