No.561 彼の瞳

 

彼の瞳には 強さと弱さが混在している

真っ直ぐ見つめているようにも見えるが

頼りなく遠くを見つめているようにも見える

そんな彼の瞳に人は魅了され 心を打たれる

 

スクリーンの中で動き回る

言葉を交わしたことのない(言葉すら通じない)他人に

自分を重ね合わせたり 時には反発したり

そんなことを繰り返して 彼は影響を与えている

 

しかし 現実にも彼は存在していた

スクリーンの中で動く彼を見る者の中には

それを忘れてしまう人さえいた

それほどまでに 彼は大きな存在になった

 

スクリーンの中の彼のみを知る

魅了された人々の中に 一人の男がいた

名前は 述べるほどでもない

ただ一人の 普通の男だ

 

その普通の男は 彼の瞳に魅了され

そんな瞳になりたいと思った

普通の男は 普通の男らしく

普通の瞳だが なれると信じていた

 

彼は おそらくこの普通の男と変わらない

彼を見る人々が 彼の瞳に何かを宿したのかも知れない

もしそうなのだとしたら 普通の男としての彼を

愛した人々は 彼の瞳が どんな瞳に見えただろうか