No.527 何かに話しかける「彼」!

 

 

誰もが気付かないフリをしていた

「彼」は一人で 何かに話しかけていた

近くに座った「スーツ」は耳を立てて

「彼」の話を聞いたが 気が付かないフリは続けた

 


「何故 今この世界が存在しているのか

 それを誰も考えようとはしない

 ただ目の前にあるものが全てで

 それで良いと思っている」

 


「スーツ」は「彼」の言いたいことがわからなかった

「彼」は「スーツ」には話しかけていなかった

「彼」は誰にも理解されないだろう

何故なら 皆が狂っているからだ

 


「道行く人々」  つまり「普通の人々(誰がそう決めた?)」は

「彼」にとって異常に見えた

「スーツ」は自分が異常であることに怯えて

「彼」の話を理解せずに 安心しているだけだった

 


「彼」の見ている何かを見ようとはしない

「彼」は それがはっきりと見えているのに

しかし 全てが狂っていると思えば

理解し合わない「彼」も 「道行く人々」も 愛おしい

 


そんなことを思いながら

歩き煙草」は「彼」を異世界の住人だと思っていた

異世界は複数存在している

まともだと思っている奴らの見えるものが それだ

 


歩き煙草」が見える範囲の中では

一番異常なのは「スーツ」のように思えた

しかし 実のところ 「スーツ」よりも異常に見えたのは

歩き煙草」だったことは 言うまでもない

 


「道行く人々」は 「普通の人々」は

「彼」よりも「スーツ」よりも 「歩き煙草」を消したい

そうやって消された側の人間は

消されたことに気が付いた時だけ 少し悲しむ

 


気が付かないフリをされている「彼」は

今まで出て来た「普通の人々」の中で一番自由だ

異世界を自覚し 対話し続ける「彼」は

哀れみも 嘲笑も 受け付けないだろう