No.482 再び目覚めた彼
タッチパネルは濡れて反応しなかった
彼は何度も何度も 同じ場所を押していた
水溜りは 彼を包むように深くなった
血も 涙も 同じ温度まで下がっていった
目が覚めると ベッドに横たわっていた
不思議な匂いが 彼の鼻をくすぐった
その匂いに憶えがあり 横に女が座っていた
「君は」と呟くと 乾いた喉で咳き込んだ
「これを飲んで」手渡されたコップには
水がたっぷりと入っていた
彼は飲み干すと 口元を拭い
「ありがとう」と言って 咳払いをした
彼は「君は もうずっと前に…」と言いかけ
女に「その話は 今はしないで」と遮られた
「私はまだ あなたと一緒に居られない」
彼の心臓に 深く残る 痛みが走った
目が覚めると 彼はコンクリートの上に居た
雨は止み 朝が訪れ 近くにカラスが居た
「そうだな まだ早いのかも知れない」
彼はそう呟き 弾倉を胸ポケットから出した
その頃 彼の腹部に小さな穴を開けた男は
家で家族と朝食を取っていた
その日は娘の誕生パーティーだったが
男が出席することはなかった