No.481 とても優しい「彼の疲れた魂」

 

 

彼が全てを飲み干して 部屋を埋め尽くす空き瓶の上で

欠伸をしながら 夜になるのを待つ時間

疲れた魂が 最終的に行き着く場所を探しながら

部屋の隅々まで そして 彼の家の半径50メートル以内をスキャンした

 

 

野良猫は彼の帰りを待っていた(出かけてもいない)

近所の少女は彼に手紙を書いていた(届けられることはない)

良く飲みに行った青年が通りかかった(彼は忘れている)

老人の夫婦が彼について話している(彼は二人を嫌っている)

 

 

疲れた魂は さらに疲れたいと思った

彼が全てを止めてしまいたくなるよう仕向けたかった

傷ついてはいけない もう 傷つけてはいけない

ただただ 何も感じなくなり 眠くなれば良い

 

 

彼は 疲れた魂の思惑通りになっていった

目の光はどこまでも小さくなり 影すらも縮み

ブラックホールになって 全てを吸い込みそうだった

喜びも悲しみも必要ない 疲れを永遠に飲み込むのだ

 

 

空き瓶の上で 彼は眠った

背中の違和感で 完全な眠りとはいかなかった

それだけが彼の疲れた魂の誤算だった

夢では あらゆる思い出が溢れてしまったのだ

 

 

疲れは何処かへ行ってしまった

ある一点の想いだけが 彼を支配してしまった

疲れを失った彼の魂は 変形を繰り返して

彼に他人への欲求を与えるためのものになってしまった