No.419

 


昨夜のしがらみを彼は忘れた

女の泣き声は昨夜に取り残された

鉤爪の跡が心を蝕んでゆく

彼は今日のしがらみに囚われた

 


朝日は魂を燃やした

腑抜けになった彼は酒を飲んだ

一つ一つ並べた空き瓶が部屋を埋め尽くすまで

それほど時間はかからないだろう

 


彼は窓を開けて小鳥の歌を聞いた

視線を落とし ベランダの手すりに捕まると

上半身を乗り出して下にある草原を覗き

そこに生えた小さな花に興味を持った

 


階段を降りて 降りて 草原へと向かい

その小さな花を根っこから引き抜いた

階段を登り 登り 部屋にたどり着くと

花鉢から枯れたのをどかして植えた

 


心が少し軽くなったことに気がついた

だが しがらみがまた彼を締め付けるまで

そして 小さな花が枯れてしまうまで

それほど時間はかからないだろう

 


昨夜の女の泣き声が何処かから彼に訴える

どかされた枯れた花の残骸が彼を睨みつける

ベランダの手すりがどんどん弱っている

小さな花は 下にある草原へ帰りたがっている