No.418 チョコレート
チョコレートを一欠片ずつにする
二十個の四角の一個をチェスの駒のように持ち上げる
人差し指と中指にチョコレートはしっくりとくる
そして 取ったり置いたりしている
彼は何十年もそうしている
毎日毎日 チョコレートを持ち 置く
相手のいない勝負は溶けてゆき
幾つものチョコレートで卓上は塗られる
密かに炎に薪を焼べている心は
彼の体温には響かない
チェスの駒の代わりをする一欠片は
彼自身に溶かされることはない
ただ 卓上には熱が帯びる
充満した熱気で空気が歪む
彼の指に付くことのないチョコレートは
卓上で溶かされてゆくのだ
彼は一日のうち一度 チョコレートを買いに行く
同じ銘柄だが何回か値段が変わった
いつもの店員は彼に微笑んで接客をするが
彼は店員の顔を覚えていない
そして 家に帰ると
チョコレートを黙々と割っている
彼は勝つことも負けることも許されない
永遠に終わらない勝負に挑み続けている