No.472 観察者

 

 

一人目は店内を見回した後 店員に文句を言っていた

ほとんど何を言っているかわからなかったが

激しく怒っていることだけは伝わってきたので

(おそらくこの店の関係者だろう)と彼は思った

 

 

二人目は店内に入ろうとしていたが 中の列を見て

諦めて帰って行った 落ち込んだようで 肩を落としていた

何度もこの店に通っている客のようなので

(おそらく舌がいかれてしまっているのだろう)と彼は思った

 

 

三人目はガラス越しに彼のことを睨みつけていた

ガラスに視線で穴を開けるようにじっと

目が合わないようにしていたが かなり難しかった

(おそらく昔酷いことをしてしまった奴だろう)と彼は思った

 

 

四人目は彼の隣に座って 彼に大量の写真を見せてきた

彼の見られたくないようなものまで映っていた

血だらけの人の前で笑って拳を赤くしている彼の写真

(おそらくこいつは俺のことを知っているだろう)と彼は思った

 

 

五人目になると 彼が観察されていて 彼は二度と観察出来ないだろう

いつか何かをバラされるという恐怖に 彼は狂っていくだろう

六人目になると 彼が死ぬほど 視線だけでガラスに穴を開けたくなるだろう

分厚すぎるガラスで 見張りも付いていて 出来るわけがないのに