No.441 そこにある果物を食え!
スーパーに並ぶ美味そうな野菜
そして何より 甘そうで 瑞々しい林檎
まあ ツヤがあるだけということを
彼はわかってはいる しかし美味そうだ
唾を飲み込む ポケットを探る
小銭など無い そこらに放り投げた…?
彼はその日一日を占うために
小銭を投げる習慣がある
今朝の小銭はころころと転がって
忌々しい隙間に入っていってしまった
「その小銭を鼠どもが使えるのか!」
彼は凄まじい形相で地面に向かって吠えた
と ここまでの記憶が脳裏に浮かぶ
なるほど と周りを見て
誰も彼のことなど見ていないとわかると
小銭のないポケットに林檎を入れた
そして スーパーの前のベンチに座り
彼は堂々と林檎を食い始めた
その恐ろしい勢いに
万引きに気が付いた店員も驚いた
バックヤードまでの道は
まるで何キロもあるかのように思えた
彼は卑しい目で 店内の人らを見物した
口元は 林檎の蜜が垂れていた
店長は 彼を問い詰める気にはならなかった
警察を呼ぶ気にもならなかった
彼は解放された 野獣のように目は血走っていた
数日後 腹の中を全てぶちまけて 彼は死んだ