No.378 シルバーのボディ

 


ジーンズのポケットから取り出して

あいつからの着信を眺めている

アンテナを伸ばして 出ようか迷って

彼は赤い電話のボタンを押した

 


シルバーのボディが折りたたまれ

あいつからの着信がいつ鳴るのか

花を千切って 占うように待って

彼はポケットを上からなぞった

 


絵文字のメールが溜まった受信ボックスは

無愛想な返事だけの送信ボックスを責めて

もう二度と鳴らなそうな 好きな歌の着メロ

彼はシルバーのボディを開けたり閉めたり

 


予想を裏切って鳴り出した

緑の電話のボタンをすぐに押した

宝くじに当たった気分で耳に当てると

彼が聞いたのは 上司の罵詈雑言

 


沈んだ気分で家に帰って水を飲んだ

停止した心と一緒にソファに座った

もう二度と鳴らないだろう 好きな歌の着メロ

彼はシルバーのボディを閉めたり開けたり

 


眠れないまま夜明けを待ってみる

シルバーのボディで 指先が熱くなる

もう一度鳴っておくれと 願っても無駄なこと

彼は赤い電話のボタンを恨んだりしてみた

 

 


詩作中、頭の中に流れていた曲

岡村靖幸「冷たくされても」