No.440 肉片

 

 

居酒屋の目の前に肉片が落ちていた

瑞々しいそれには蝿が集っていた

(まだ新鮮なうちに これを拾っておこう

 家に貯めてある瓶に入れ ホルマリンに漬けよう)

 

 

郵便局の前のポストの上に また肉片落ちていた

蝿も寄らないほど カラカラに乾いていた

(もうだいぶ経った頃だろうが 拾っておこう

 家に貯めてある瓶は まだまだ沢山ある)

 

 

そうやって バラバラになった肉片を

彼は集め続けて 瓶に詰めて ホルマリンに漬けて

部屋の端から端までの棚に並べて

それを見ながら煙草を吸った

 

 

(我ながらよく集めたものだ)

瓶のラベルには題名が書いてある

そして彼は 何度も何度も 端から端まで

その肉片を眺める日々が続いた

 

 

彼の詩集が完成したときに

友人は彼に聞いた

「あいつも 同じような詩を書いていなかったか?」

彼は友人に答えた

 

「実を言えば そうかも知れない

 しかし見てくれ この棚

 あいつの物で一杯だろう?

 あいつの代わりに これを作ったんだ」

 

 

友人は 彼に煙草を一本渡した

彼はライターで 二本の煙草に火をつけた

(誰にも気付かれなかった肉片たちよ)

二人は心の中で話しかけた

 

 

そして 彼の詩集は店頭に出された

手に取り 中を開き 読み込む

一人の高校生は その詩集を買った

そして詩を描き始め 詩人になった