2020-06-24から1日間の記事一覧

No.506 飴が好きなあいつ

頬が膨らんでいたので あいつはまた飴を舐めていたのだろう 遠くから眺めていたので 彼にはわからなかった あいつはこっちを見ると すぐに何処かへ消えてしまう それが何故だか 無性に面白いことと 彼は思っていた あいつが消えてしまえば 何かに怯えること…

No.505 彼と蝿

「またいつか 一緒に行こうね」 蝿は 彼に言ったが 彼には聞こえなかった 肩に乗り あらゆる景色を見た時でさえ 彼は 蝿の存在に気が付かなかった 「いつも一人 また一人 明日も一人 だろうか」 彼が木に登って 太い枝に寝そべりながら そう呟いていた時も …

No.504 ぶかぶか

彼の身に付けるものは 全て 彼にとって少し大きかった 上着もズボンも Tシャツも 少しだけ浮いて見えるほど 残りの金が少ないのに タクシーで帰ってしまったり 高い中華を食べてみたり ホテルに一晩泊まったりもした 少し大きいということは 彼が少し小さい…

No.503 彼と苗

積み重なって仕方ない不安の種を 大事に育てても 意味はなく 彼にとってその小さな苗は 鬱陶しいだけで 窓際に寄せた 水やりは毎日忘れなかった 苗はすくすく育っていった 普通の花なら 写真でも撮って 誰かに見せたくなるのだろうか 彼は苗を育て始めて一週…