No.506 飴が好きなあいつ
頬が膨らんでいたので あいつはまた飴を舐めていたのだろう
遠くから眺めていたので 彼にはわからなかった
あいつはこっちを見ると すぐに何処かへ消えてしまう
それが何故だか 無性に面白いことと 彼は思っていた
あいつが消えてしまえば
何かに怯えることもなく 過ごせただろう
彼は怯えたいのだろうか
あいつの痕跡を探して 歩き回って過ごしていた
あいつが好きな飴を スーパーで見かけて
四袋ほど買って 帰ってみると
あいつは飴を舐めながら 彼がいつも過ごしている
ソファの上で 眠っていた
彼はあいつの寝顔を初めて見た
あいつも眠ることがあるのかと 不思議に思った
四袋が入ったスーパーのビニール袋を
あいつの傍に置くと 散歩に出かけることにした
彼は 街にあるものが飴だと気が付いた
街灯も 薄汚れた壁のシミも
マンホールも バス停も 置かれた自転車たちも
全て飴だった 彼はとても驚いた
部屋に帰って あいつはまだ寝ていたので
叩き起こして どういうことかと聞くと
「あなた 何を言っているの?」なんて答えて
はぐらかすので 彼は寝てしまった
四袋入っていたビニール袋は 次の日には無くなっていた
ゴミ箱には大量の飴の包み紙が捨ててあった
街へ行くと また更に 飴が目に入ってきて
彼は気が狂いそうになりながら あいつを探し続けた
しかし あいつはもう 彼の前に現れなかった
飴に飲まれて 溺れそうになっても
舐めて溶かしてくれることもないだろう
そして彼は もう飴を買うことはないだろう