No.387 砂鉄で出来た男の子!

 

 

素晴らしいことを思いついた彼は

ミニチュアのような手で磁石を持った

砂場に駆け寄り 砂を掬い 砂鉄と分けた

ビニール袋に入れ 磁石を近付けたり離したりした

 


彼は砂鉄が大好物だった

朝のマーマレードを塗ったパンにも

昼のタコの形のウィンナーにも

夜のホットココアにも 一さじ入れた

 


彼は巨大な空き缶の中に砂鉄を集めていて

空き缶の周りに磁石を貼り付けたら

中がどうなるのかを考えていると

一日があっという間に過ぎてしまうのであった

 


砂場から家に帰る時

収穫した砂鉄でいっぱいになったポケットを

大事そうに撫でている姿は

子犬を可愛がる母犬のようだった

 


家に辿り着くと 真っ先に砂鉄を缶に入れ

冷蔵庫に磁石を貼り付けて

ベッドに飛び込むと 伸びをしながら

砂鉄のありそうな場所を考えていた

 


彼はお菓子の袋を開けて

缶から砂鉄を大さじ一杯かけた

美味しいコンソメ

さらに美味しくなった気がした

 


そんな彼が 灰色の肌になって

身体にびっしりと磁石を付け

見世物小屋の奥から現れた時には

しっぽを生やした男も驚いた

 


しかも彼は十も歳を数えていない

見世物小屋のオヤジは酔っ払っても

決して彼をいじめることはしなかったが

それで良い人物とするにはあまりに足りない

 


彼が磁石を磨いていると

蛇の舌を持つ女が興味をそそられて見つめた

彼の体内の砂鉄は 彼が緊張すると

頭に登ってきて  磁石も登ってきた

 


すると 小さな頭はバチンと音を立てて

磁石と磁石の間で 健気な脳みそが潰れた

蛇の舌を持つ女が見世物小屋から出ていった理由は

きっと彼の最期を見てしまったからだろう