No.388 街並みを見つめる男

 

 

ぶ厚いジャンパーに手を入れて

街並みを見つめる男がいる

その瞳には街灯が映り

涙を流した後のように見える

 


街灯は彼の瞳で揺れている

彼も揺れる街灯を見ている

寒さも忘れ ただただ街並みを見る

行き交う人々は彼を無視する

 


彼に一体何が起こったのだろう

一体何が 彼をここに引き止めるのだろう

誰かを待っているのだろうか

それとも 忘れ去りたいことがあるのだろうか

 


彼はおもむろに煙草を取り出し

火をつけないまま咥えている

ライターはポケットの中にあるというのに

煙は一向に立たない

 


(街灯の一つが彼にお辞儀をするように

 顔を覗き込んできたので

 彼は眩しさに耐えて 真正面を見続けると

 街灯は恥ずかしくなり 元の通り しゃんとした)

 


彼はまた街並みを見つめている

街並みは特別なものが一つもなくそこに在る

彼はまだ街並みを見つめるだろう

街並みが特別にならない限り ずっとそこに居る