No.504 ぶかぶか

 

 

彼の身に付けるものは

全て 彼にとって少し大きかった

上着もズボンも Tシャツも

少しだけ浮いて見えるほど

 


残りの金が少ないのに

タクシーで帰ってしまったり

高い中華を食べてみたり

ホテルに一晩泊まったりもした

 


少し大きいということは

彼が少し小さいということ

煙草を咥えてみても

木の枝を咥えているようで 様にならない

 


煙草の煙でさえ 彼にとって少し多い

彼にまとわりつく ぶかぶかな空気の中

苦くて渋いにおいが充満すると

その空気は 少しだけ萎んで 彼にフィットした

 


そうすると 彼はしっくり来た気がした

その時に初めて 全てがぴったりになった

その時以外はぶかぶかだ この地球でさえ

彼にとっては ほんの少し 大きい