No.406 彼と彼の部屋

 

 

悲しみに打ちひしがれて

背を向けた過去の罪を数えて

彼の瞳は暗闇に紛れて

明るく輝く窓の外を見ている

 


昨日見た夢の続きを見たくて

眠っても朝は残酷に訪れ

彼を守る術を 彼自身が忘れて

昨日と全く同じ景色を見る

 


素晴らしいことが

愛すべきものが

その指から溢れて

砂に変わったとしても

 


彼はそれがあったことさえ

忘れてしまう そして今日も一人

彼にそれがあるとわかっても

何も出来ず そしていつも一人

 


楽になる秘訣は孤独に慣れ

一人きりの頭の中を整理して

何も必要がないと信じ込ませ

こめかみに銃をめり込ませる

 


引き金を引いた

何度も何度も

彼の頭蓋骨には

無数の穴が空いた

 


引き金を引いた

来る日も来る日も

彼の脳味噌色の

部屋の中のソファーで

 


もう誰も来ない

彼は誰も必要としない

悲しみも過去の罪も

暗闇さえも彼を通り過ぎる

 


「そしたら行こう 洒落た喫茶店

 コーヒーを一杯奢らせてくれ

 お前の好きな煙草の銘柄も知っている

 お前の大切な思い出も幾つかある

 


 それから先は 何処でも良い

 何かをしよう 手伝わせてくれ

 お前が見たい映画の券を買って

 お前が聞きたい中古のCDを買おう」

 


物言わぬ彼を 目の前にしても

何もしてやれない 話しかけても

返事はない 彼は家具の一部になった

彼に腰掛けて 彼は溜息を吐いた

 


煙草を取り 咥えたあとは

皆がするようにして 重く呼吸した

彼の部屋は静かで 外は騒がしい

彼はどちらかというと 静かな方を好んだ