No.405 チューリップ
咲かせた花はチューリップ
誰かに踏まれて見る影もなく
しかし確かに 土の中に在る
風にそよぐことも出来ないが 息をしている
枯れる季節が近付いても
土に埋もれて 寂しくはない
ミミズの温もり 他の葉の根のにおい
ありきたりな陽気は 背中だけに差し込む
幼子の手が合わさったような形は
とっくの昔に崩れてしまった
しかし確かに 土の中に咲く
そんな花に水を与えている 無口な一人の男
枯れる季節が過ぎ去っても
真っ赤に染まり 広がってゆく
ミミズは離れ 他の葉は死んでいく
ありきたりな雨音は 背中だけに降り注ぐ
男はチューリップをいつまでも見守った
チューリップもまた いつまでも男を見つめた
一人と一輪の時間は 瞬く間に過ぎ去ったが
誰かに踏まれても 土の中に在り続けた