No.576 鳥と彼!

 

 

同じ色で同じ大きさの

五階建ての建物が並んでいた

彼はその建物の呼び名を知らないまま

中へ入って探索をした

 


かつて人の居た痕跡があった

状態の良い家具が残る部屋もあった

しかし 大体のものは崩れ落ち

あとは砂になるだけのようだった

 


彼は屋上へと上がった

同じ建物が 地平線の先まで二列に並んでいた

建物にはAとBが書かれ 番号が振ってあった

その数を数えることには あまり興味がなかった

 


一羽の大きな鳥が 彼の頭上を過ぎて行った

彼を見たからか 一つ大きな鳴き声を上げた

彼の着ている服は鼓膜と一緒に震えた

大きな鳥は そのまま遠くに行ってしまった

 


大きなリュックの中を漁り

一人がやっと入れるほどのテントを組み立て

中に入ると 彼は落ち着いた

睡魔に襲われ 地の底深くに沈む感覚を覚えた

 


目が覚めると テントの内側から

朝になったことがわかった

外に出ると 並んだ建物の向こうで

太陽が昇って来ていたので 眩しかった

 


一つ伸びをして 振り向くと

昨日見た大きな鳥が 

彼のテントの近くに止まっていた

彼は驚いたが とても冷静だった

 


鳥は まっすぐ彼の方を向いていた

彼も 視線を逸らさずに居た

しばらく経つと 鳥は目を閉じて

身体を丸めて 眠り始めた

 


彼はテントに近づいてバッグを開け

音を立てないように銃を取り出した

鳥に銃口を向けて 引き金に指をかけると

鳥は 大きな口を開けて彼を一飲みした

 


鳥は(なんて単純で 脆い生き物なのだろうか)と思った

(少し硬く 苦味があるが 悪くない食事だ)とも思った

大きな翼に風を集めて 浮かんできた自身の体の中で

カチンカチンと音が鳴っていたが あまり気にしなかった

 


彼のテントがあった屋上から飛び立ち

朝日の方向に進んでいった

太陽は力強く 鳥を歓迎しているように感じて

鳥は(清々しい朝だ)と思った

 


(待て 何故だ さっきから腹の辺りが重たくなっている)

そう考えて下を向くと

腹に空いた小さな穴から オイルが漏れるように

血が出続けていることに気が付いた

 


鳥は 先ほどの食事で

良く噛まなかったことを思い出した

彼の持っていた銃の引き金を

鳥の内臓が引いてしまったようだった

 


しかし 鳥はあまり気にしなかった

太陽が近付いて来ているのだから

何も心配しなくて良いと思っていた

徐々に 建物が近付いていても