No.436 8本の煙草

 

 

僅かな光がカーテンから差し込む

薄目をあけ 時間を確認する

午前8時 まだ何も始まっていない

彼は二度寝するために目を閉じる

 


2時間後 暇を潰すためにデパートへ行く

(シャンプーの種類が多過ぎるのでは?)

彼はそう思いながら一つ選ぶ

人はあまり居ない 開店直後だからだろうか

 


エスカレーターに乗り 4階へと向かう

本屋に新しい小説が並んでいる

ブコウスキーの少年時代を描いた小説は…

きっとハーレクインに殺されてしまった

 


彼は煙草が無性に吸いたくなる

愛読している漫画の新刊を買う

エスカレーター付近のソファに座る

ボロボロの服を着た老人がやけに気になる

 


彼は二階まで降りて

出入口から駅へと向かう

ペデストリアンデッキの途中

階段を下りた場所に喫煙所がある

 


ジッポライターは傷だらけだ

煙草を咥える唇と同じように

炎はほんの少し出ただけ

煙草の先は灰色に変わり 彼に近づく

 


上の面と下の面で差が出来て

煙草の先は鉛筆のようになる

灰を落とすとそれがボロッと落ちて

彼の心は少し落ち着く

 


家に帰ると さっき買った漫画を読む

(一体どうなってしまうのだろうか?)

ページをめくりながら 煙草に火をつける

漫画の主人公はヘビースモーカーだ

 


読み終わると 服を買いに行く

歩きながら煙草を吸う

やけに派手なTシャツと短パンを買う

家に帰るとそれに着替えて 煙草を吸う

 


紅茶を入れて一口飲み 煙草を吸う

夕日をベランダで眺めながら 煙草を吸う

窓を全て開いて 煙草を吸う

煙草を吸いながら 筆を取り 吸い終わると 煙草を吸う

 


彼は新しい一編の詩を書き上げる

のっぺりとした1日の出来事を詩にする

彼は少し黄色くなった壁を見ながら

掌に同化したようなジッポーで 火をつける