No.352 シキとカケ

 

 

コインランドリーの回転が

頭をぐるぐるかき回す

布団の頭はどこにある

きっと彼の頭の方

 


乾燥機の暑さは丁度良く

布団は居心地良く過ごす

取り出しに来た彼の右手には

マルボロの香りが付いている

 


家に帰るとクッションの上

布団はふかふかな感触の上

ふたつでひとつの布団の頭に

枕を置かれて さらに落ち着く

 


枕がふたつに話しかける

「君らはぐるぐるが好きか?」

ふたつの布団は同時に答える

「当たり前だよ 君はどう?」

 

 

 

布団は 腰かける彼を迎える

何だか元気がないので 布団は落ち込む

シキは彼を受け止めようとする

カケは彼を包みこもうとする

 


枕は 少し駄々を捏ねている

彼の頭が重たいと言う

シキは「こっちの方が重いよ」と言い

カケは 「まあまあ 仲良くやろう」と言う

 


するとクッションが「うるさい!」と

彼も気付きそうなほど大きく叫んだ

シキもカケも枕も驚いて身をすくめたが

彼は マルボロに火を付けて 深く吸っていた

 


シキは この香りが好きだ

カケは そこまで好きではない

枕は 嫌いではないが苦手だ

クッションは 全部が気に入らないみたいだ

 


シキはこの香りに包まれて

時間を過ごすのが幸せだ

カケと枕とクッションは

灰皿をベランダに移してやりたかった

 


彼がマルボロを吸い終えると

カケを退かし シキに寝転がり 枕に頭を乗せ

クッションが沈み 最後に カケが包む

「これが一番 落ち着く瞬間だな」

 


誰の独り言だろうと

みんな少し嬉しかった

夜というのは早く過ぎてしまうから

シキとカケは遅くまで起きることにした

 


そして マルボロとライターを見つけて

こっそりと端を伸ばして するすると掴み

咥え(布団に口なんてないだって?)火を付け

シキは深く吸い込み カケに煙を吐き出してみた

 


すると カケは直に煙を詰まらせてしまい

中のふかふかが飛び出るほどに咳き込んだ

シキは慌てて背中(布団にもあるんだよ)をさするが

その時マルボロを彼の上へと落としてしまった

 


彼は起きなかった どんどん焦げてゆく

穴が空いても 彼は気付かなかった

シキとカケは 申し訳なさそうにしていた

朝 彼はクッションの上で目覚め 違和感を感じた

 


右目が見えなくなっていた

昨日シキが落としたマルボロのせいだとも知らず

手探りで何かを探している

ふとベランダを見ると 不思議なものが左目に映る

 


布団がふたつ 干してもないのに

物干し竿に吊るさがっている

どこから持ってきたのか 太い縄で首を括り

ちょうど自殺した人間のように日を浴びる

 


彼は「あれ 昨日ちゃんと寝たはずなのに」と

全てを疲労のせいにして出かけてゆく

シキとカケは反省するのに飽きたので

クッションのお説教を聴きに 部屋に戻って来る