No.477 15分弱

 

 

ステンレスに映った自分の顔が歪んで

笑っていないのに笑っているように見えた

そんな時 彼はこう思った(全て無意味だ)

あと3本の煙草も あと3回分のオイルも

 


オリーブオイルが反射して 鳥の形をした

そのまま羽ばたいてしまえば良かった

コーヒー豆の入った瓶は 食虫植物の形をした

ステンレスの中を全て食ってしまえば良かった

 


換気扇は右耳の横で いつまでも回転した

外に吐き出す煙を 滅茶苦茶に切り刻みながら

そんな時 彼はこう思った (全て不気味だ)

あと2本の煙草も あと2回分のオイルも

 


ベランダに続くガラスのドアの向こうから

親しげな隣人たちの窓が彼に語りかけた

「今日という日を噛みしめれば良いよ」

彼は「噛み締めた分だけ苦々しい」と語りかけた

 


男の話し声がして 女の笑い声がした

それを上書きするように 電車の音が聞こえた

そんな時 彼はこう思った (全て無愛想だ)

あと1本の煙草も あと1回分のオイルも

 


止まらない水がシンクに落ちながら

彼のことを見て 心配そうにしていた

湖が出来そうなシンクの中を覗いて

彼は2ヶ月分の料金を 心配そうにしていた