No.400 永遠の一瞬 一瞬の永遠
コバルトブルーの爪で引っ掻いたガラスが
透明な破片を青く染めあげる時
彼は耳を塞ぐことも無く
ただその爪の持ち主を見つめているだけだった
ヒトはあっけなくただの物になった
人間はあっけなくただの器になった
彼の肉を頬張る怪物は
青い破片の中で泳いでいた
彼が最期の一瞬に見た永遠を 撮影出来たら
偉大な写真も 偉大な映画も作れただろう
彼が見た永遠は 永遠に彼のもの
そして その永遠は一瞬で消え去ってしまう
彼は 自分が母の胎内にいるところまで遡り
死んだ歳の遥か先まで 一瞬の永遠で生きた
コバルトブルーの爪が彼を抉り始めた時
彼の表情は穏やかだった
それから怪物は 永遠に一瞬を生きている
命は尽きることがなく 時間を数えることもない
怪物にとって彼はすぐに忘れる存在であったが
彼にとって怪物は 永遠を与えたものになった
一瞬の永遠が 消えたあとも残っている
彼はどこかにこびりついたままだ
永遠の一瞬が 何よりも短く過ぎてゆく
怪物の口元には 彼がこびりついたままだ