No.401 ブラウンバター
押し入れから引っ張り出してきたような
ぐちゃぐちゃな歌い方で
彼はぶちまけた鬱憤を音色に乗せて
ウイスキー色の部屋で暖を取る
ベッドの下の隙間で発酵したパンのような
ぐちゃぐちゃな歌い方で
彼はぶちまけた鬱憤を指先に集め
コイーバ色の網タイツを破り捨てる
彼は「明日が来なければ良い」と感じながらも
「ゆくゆくは」と人生の終わりへの航路を
不確かな方角を示すコンパスと 穴だらけの船で
推測し 落胆することにも慣れている
水滴の付いた小さな天窓のような
あの女の歌声を聞く時は
彼は鬱憤を溜めることが出来ずに
ウイスキー色の部屋で凍り付く
夜になると騒ぎ出す冷蔵庫のような
あの女の歌声を聞く時は
彼は煮えたぎる鬱憤を冷やされて
コイーバ色の網タイツを撫でる
彼は(昨日が足を引っ張って)溶けたバターの上
(どろどろの)船底は悲鳴をあげている
不確かな味がする干し肉を平らげながら
泥酔で 誤魔化すことにも慣れている