No.402 彼と彼のバスタオル

 

 

砂だらけになってしまった髪を洗う

彼のシャンプーは女物で良い香りがする

夢心地の海辺から戻り 水着はもう脱ぎ捨てた

あとは乾いたバスタオルで 乾くまで擦るだけ

 


潮風が半開きの窓の向こうから漂ってくる

海は広く 水平線は視界を横断する

彼が見上げた空には カモメが二羽と少しの雲

あとは煙草と酒で充分になった

 


彼にはメンソールがあまりにもキツくて

少し閉じかけた目蓋が勢い良く開く

パラソルにかけて乾かしてあるバスタオルは

彼の身体を拭いた分だけ不貞腐れている

 


彼にはアルコールがあまりにもキツくて

良く開いたはずの目蓋を閉じてゆく

パラソルにかかり揺れているバスタオルは

彼に付いていた水滴の数の小言を言う

 


一人きりで サマーベッドに横たわり

白すぎるテーブルの 鉄で出来た灰皿の中

煙草の灰を落とし 彼は眠りに落ちてしまう

バスタオルは乾ききった後 風に飛ばされる

 


一枚きりで そよ風やつむじ風と話し

白すぎる雲に届き また落とされていく

煙草の香りがしたり 眠る太陽を見たり

バスタオルは彼じゃない場所へ 飛ばされてゆく