No.304 箱

 

 

預かった荷物を 捨てるに捨てられず

彼は酒の瓶と一緒に それを抱えていた

誰から預かったのかも 覚えていない

それは中身もわからない綺麗な装飾の箱だ

 


中から時計のような音が聞こえた

後に換気扇の音が聞こえた

ある時は赤ん坊の泣き声が聞こえた

次の日は鳥の鳴き声が聞こえた

 


彼が自転車を盗んだ時には

コソコソ悪巧みの相談をしてくれた

酒の瓶がなくなった時には

中からアルコールのにおいがした

 


箱は 彼に いつも囁き続けて

伝え続けて 次第に心に入り込んだ

夢の 中の 奥の奥までも

箱は彼に抱えられていた

 


彼はある朝 違和感に気が付いた

そして もう後戻りは出来ないのだと悟った

装飾はかさぶたのように感じ 内側に息遣いを感じた

箱は起き上がって 彼を抱えて歯を磨いた

 


箱は支度を終えると 人気の多い公園向かった

そこにいた 無気力そうな若者を見つけて話しかけた

彼は若者に渡されていった 箱は去り際に笑った

こうやって順番待ちをする物が 箱の中でないていた