No.306 コンクリートの深海魚
人が行き交う 繁華街の隅っこで
金をばらまきすぎて死んでしまった男がいた
その男の友人が花を手向けると 車がそれを轢いた
弾痕があった
壁に無数に空いていた
その穴のひとつに
轢かれた花の欠片が入った
穴の中で暮らしていた男は
紅茶の中に入った その花の欠片を
気にもとめずに飲み干して
コンクリートに住む深海魚が
穴の中で暮らしていた男を見つけて
花の代わりに海藻を食べさせた
彼は渋い顔をしたが 平らげた
繁華街で死んだ男は
深海魚の住処になった
穴の中で暮らしていた男は
結局死んで 深海魚の住処になった
花を手向けた男まで
コンクリートに飲まれて死んだ
コンクリートは男たちを飲み干して
カラカラに渇いた女たちが残った
深海魚たちは女たちを欲しがった
どちらかと言えば 住みやすい形かも知れない
だが 女たちは男たちを忘れて
コンクリートの上を飛んでいた
美味そうに膨らんだ脚と尻を眺めて
生唾を飲み込みながら 深海魚たちは暮らしていた
男たちが目を覚ますと
内蔵の中が海藻で満たされていた
死んだと思い込んでいたら
眠っていただけだった
起き上がると
座り直して
女たちを眺めた
下から見る女たちは どれも同じに思えた
体育座りの男たちと深海魚たちは生唾を飲んだ
太陽の光は要らなくなった
何よりも暗く 深いコンクリートの中では
光が弱くても 何でも見える気がした
一人の女が 何を間違えたのか
コンクリートの中へ飛び込んで来た
顔の原型が無くなり グチャグチャになったそれを
男たちは貪り尽くした
深海魚は男たちを眺めていた
ただただ 冷めきった表情で
飽きると
遠くへと進んで行った
コンクリートが終わる場所まで行きたかった
男たちは 女の残骸の横で
深海魚たちが居なくなったことに気が付いた
いくら探しても見つからない
あるのは 海藻と栄養にならないものだけだった
女たちを眺めることしか出来なくなった
もう深海魚の隣で悪態をつくことも出来ない
深海魚たちは きっと親友にようなものだったのだろう
コンクリートの孤独の中 今でも男たちはメソメソと泣いている