No.594 無駄なことばかり考えた男!

 

 

彼は頬杖をついていた

右の掌が 右の頬骨を突き破るほど

もう何時間そうしているだろうか

明るかった空が 暗くなるのを感じた

 


思い耽ることの正体について

彼が知ることはなかった

ただ 脳内に住む深海魚の群れに

空想の手を差し伸べようとしていた

 


深海魚は 彼に近付いてきて

「汚らわしい 早くここから出てって!」と言った

彼は少し寂しい気持ちになりながら

他の深海魚が話しかけるのを待った

 


脳内の海水は 涙と同じ味がした

息が詰まる 暗闇が包む 光る魚の群れだけが

彼にとっての光であり 温もりであった

しかし 話しかける深海魚はもういなかった

 


彼は頬杖をやめて

キッチンに行き 漂白剤に手を漬けてみた

ヒリヒリとすると 脳内の深海魚は死に

新しく生まれる涙が 一つ零れて海を作り始めた