No.302 プラスチック
私は 自分が男だったのか女だったのかさえ忘れてしまった
飲み過ぎた薬の瓶が転がり落ちた血だまり
バスタブで八つ裂きになった私の身体を眺めた
なるほど と思うが やはりどちらともつかない
至る所に痣と 引っかき傷があった
金属バットと愛し合ったような
硝子にナイフを突き立てたような
そんな感触 どちらも冷ややかだ
別に 男でも 女でも どちらでも良い
精液も膣液も似たようなものだ
所詮排泄され ちり紙と一緒になる
その後は ゴミ箱に捨てられるだけだ
頭がめくれる 痛みに耐える
また薬を飲んでしまったら 今度こそ
「今度こそ」と望みつつ 死は恐怖だ
ただ 死は何よりも勝る快感とも聞く
不幸は蜜の味である 他人のものでなくても
私はそれを体験していた 不幸中毒者だ
満たされたあと 渇き また満たされる
それが加速していくと 渇きしか残らない
あの人の腕は逞しかった
あの人の肌は滑らかで暖かかった
あの人の髭はくすぐったかった
あの人の瞳は深過ぎて引きずり込まれた
最後に性交したのは 確か女だった
いや 男も混ざっていたと思う
精液の味がする 中指から膣液の匂いがする
愛なんて無かった 糞まみれの性交
途中 死ねば良いと思った みんな死んでしまえと
誰でも良いから 苦しんでしまえと
そうすると 私は快感に包まれていた
果てて 数時間後 バスタブで血だらけでいる
まさぐると穴を見つけた 排水口だった
何故か私はそれを舐めたくなった
舐めていると気分が落ち着くのを感じた
裸でいるのが馬鹿馬鹿しくなって 身体を拭き服を着た
精液がテーブルにこびりついていた
膣液が蛇口から滴っていた
冷蔵庫の中を見ると 保存されたAVがあった
この世で最も下品なタイトルが付いていた
最悪なことをいつも想像している
私はソファに座り AVを逆再生する
このまま死んで 遺体の前で
男と女が 滑稽に踊っている想像をする
私は 男でも 女でもない
頭の痛みが和らぐと 鮮明になってくる
私は 人間でも 動物でもない
精液と膣液の間で 漂っている無機物だ