No.282 一雫

 

 

人との関わり合いを避けるあまり

孤独を愛してしまった男がいた

彼は誰よりも乾いた息を吐いて

その息をも白くする季節を嫌った

 


一年という時間は短く

季節というものは儚く

巡り来る苦しみの中で

一雫でも何かを垂らせたのなら

 


涙は渇く 出来事は全て置き去りで

彼は 思い出すら全て置いたままで

薄い布団とボロボロの毛布の下で

死体のように眠ることを幸福とする

 


誰かが彼を指さして笑ったとしても

彼は誰にも指をささないだろう

それは彼の中の唯一の人への思い

(黙っててやるから 黙って過ぎ去れ)

 


彼の全てが乾く頃には

孤独も乾き切ってしまっていた

その時に初めて彼は全ての点と結び付き

何かの一つとして垂れていった