No.567 知らぬ間に旅する男!

 

 

風船を拾った 木にかかっていた

登る時にたくさんの人に見られていたが

彼はこれっぽっちも気にせずに

手を伸ばし しがみ付き 風船を拾った

 


昨日ツイてなかったおかげで

風船を見つけることが出来た

彼はとても嬉しくて

小躍りしたいのを我慢しながら家に帰った

 


下駄箱の上に貯めた10円玉を

40枚持ってスーパーへ行った

家に帰ったというのに

また出かけるのは非効率だ

 


しかし 彼は非効率が好きだった

朝出かける時に 10円玉を40枚持って行っても

少しも楽しくなかった

彼にとっては 一旦家に帰ることがとても楽しかった

 


何故かと言えば 扉を開けて家の中に入り

もう一度外に出たら 全く別の世界に行けると

本気で信じていたからだ

ただ彼は 本当にそうなっていることは知らない

 


スーパーでは 彼の知らないメーカーのジュースと

彼の知らない生き物の焼肉を買って

それでも何か足りないと思い立って

コンビニでスーパーヘビーの煙草を買った

 


それからプラプラと少し散歩して

家へ帰るが それは彼の家ではなかった

知らないはずの母親に「おかえりなさい」と言われ

「ただいま」と返すと 微かなビープ音がした