No.589 ブンチョウ!

 

 

放し飼いにされても 決まったルートを

行ったり来たりしているだけ

彼の相棒は羽ばたいて テレビから

部屋の角を曲がって またテレビに戻る

 


「窮屈な部屋にある 道標は何だ?」

彼は聞いてみたが

「とっても楽しい一日の始まり」

それしか返事はなかった

 


「墜落する人生の 墓標はどこだ?」

彼は聞いてみたが

「とっても緩やかな一日の終わり」

それしか返事はなかった

 


(彼は虚しくなってきて

 豆粒ほどの脳味噌の馬鹿に

 何故自分の行き先を聞いているんだ?)

と思って部屋を出た

 


夜はすぐに溶けて水になり

流れていくものならば

朝と昼は何故あんなにしつこいのか

月に聞いても答えない

 


電柱が吐いた唾がかかって

彼の怒りで曲がる壁

コンクリートと血のにおい

家に帰っても馬鹿しかいない

 


声は届かず 動けない

彼の帰りを待つばかり

彼の相棒は羽根を落とし

痕跡のように降り積もり

 


帰らぬ彼がどこへ行ったのか?

テレビに聞いても答えない

白い机も 高かったソファも

干したままの洋服も答えない