No.588 眠れない彼は眠りたい!

 


彼の向こう側で夜が明ける

日差しが少し 溢れるくらい

昨日までのことが嘘のようで

また引き戻される感覚

 


彼の向こう側で雨が降る

日差しは少し フィルターにかけられ

降り注ぐ場所を失った光は

雲の上で退屈そうにしている

 


ソファの上で ベッドの上で

誰かの頭の上で 彼は眠りたい

電車の中で 喫煙所の中で

誰かの頭の中で 彼は眠りたい

 


彼の向こう側で時が過ぎる

取り残された彼は 不貞腐れる

楽しい時間はさらに弾き出されて

つまらない時間が少し近くにある

 


彼の向こう側で人が話す

彼に語るべき物語はない

作り話で良ければと近付いても

誰も彼の方を見ていない

 


シーツの下で デスクの下で

誰かの心の下で 彼は眠りたい

バス停の隅で コンビニの隅で

誰かの心の隅で 彼は眠りたい

 


コートの端で スカートの端で

誰かの思い出の端で 彼は眠りたい

スーパーの角で フローリングの角で

誰かの思い出の角で 彼は眠りたい