No.580 二人のヒーロー!

 


拙い言葉でまくし立てた

彼はいつだって 真面目な顔で

本物のヒーローについて

自分なりの思いをぶつけていた

 


彼の友人は耳にたこが出来て

そのたこすら 彼の話に辟易していた

しかし本物のヒーローは

彼の知らない場所で 今日も闘っていた

 


「ああ 変わった人だよ

 いつも同じ話ばかりしてさ

 あることないこと言って

 構って欲しいだけなんじゃないか?」

 


彼の行きつけのバーの店主は

彼についてこう語っていた

その時はいつも決まって同じ酒を飲んで

たちの悪い酔っ払いに変わるらしい

 


彼は 友人と一緒に映画を観に行って

その映画のつまらなさを

この世の全ての悪に結びつけて考え

本物のヒーローの話をし始める

 


「きっと あの方ならこんな映画

 オレオレ詐欺と一緒にやっつけるね

 あの方は 素晴らしいパワーを持っていて

 それが 全てに影響すると思うよ」

 


次の日 本物のヒーローは

つまらない映画に出演した

麻薬に溺れていた役者を警察に引き渡し

公開中止にまで追い込んでしまった

 


さて 本物のヒーローは

つまらない映画を潰しても良いのだろうか?

彼の友人は そう考えて

本物のヒーローに会い 聞いてみた

 


「私は ヒーローだ

 人に悪いことをする奴を許せない

 何万の人が 人生の内の2時間半を無駄にする

 それを寿命に換算すると…」

 


スマートフォンを取り出して

本物のヒーローは電卓アプリで計算をし始めた

彼の友人は 耳に出来たたこをマスク代わりに

新しいヒーローになろうと決めた

 


本物のヒーローと知り合いの 新米ヒーローは

正義よりも人助けになることを考えてみた

まず取りかかったのは 彼の話を真面目に聞いて

彼が「本物のヒーロー」に変わる時 注意することだった

 


本物のヒーローは ライバルでもあり

心強い相棒でもある仲間を見つけた

それ以降は 犯罪件数は減らなかったが

お腹が空いた子供は少なくなった