No.586 彼がアンナに出来ること

 

 

水が滴り落ちて 地面に溜まっていく

ちゃぽんと鳴って 広がっていく

彼はその音を聞きながら 瞳を閉じている

ひんやりとした洞窟の中で 瞑想をする

 


しばらく経つと 一匹の鼠がやって来て

彼の太腿を一口食いちぎる

太腿の肉は鼠の腹の中で

彼を名残惜しく思う

 


鼠は洞窟から出て 素早く逃げて行く

彼の太腿の肉が消化される

鼠の脳に電流が走り 彼と繋がる

彼は鼠の姿になって 街へと向かう

 


何度も通行人に踏まれそうになりながら

一軒の花屋の前で止まる

鼠の姿の彼は 花瓶の裏に身を隠して

店員の女の顔を眺める

 


それは彼と幼馴染のアンナだった

彼はアンナをとても愛していた

しかし アンナは別の男と結婚をして

夫婦で花屋を営んでいる

 


彼は近付いてみる

花を束ねるアンナは 彼に気が付かない

「おい!鼠がいやがるぞ!」と怒声が聞こえ

彼はアンナの旦那に叩き潰される

 


旦那は アンナを殴り

「鼠なんてうちの花に近寄らせるな!」と怒鳴る

アンナは 優しかった彼のことを思い出す

彼について行けば と胸が苦しくなる

 


水が滴り落ちて 地面に溜まっていく

ちゃぽんと鳴って 広がっていく

彼はその音を聞きながら 瞳を閉じている

ひんやりとした洞窟の中で 瞑想をする