No.591 ソファに座りながら

 

 

クリスタルのティーポットの中に

ハーブティーを入れながら 彼女は言った

「あなたを止める気はないわ ただ…」

彼はソファに座りながら 彼女をまっすぐ見つめた

 

 

「ただ どうなるか分からない

 世の中にはどうにもならないこともあるわ

 責任を取れるなんて思えない

 だから」

 

 

そこまで言わせると 彼は立ち上がり

ベランダに出て煙草を吸った

彼女は夜の街と彼の背中を見ながら

深くため息を吐くだけだった

 

 

彼は 明日起こるだろう残酷な出来事が

自分にのみ降りかかる方法を探していた

もはや 振り向いて彼女を見る勇気さえなかった

代わりに 夜の街の中で騒ぐ酔っ払いを眺めた

 

 

朝が訪れた 彼は眠れずにずっとソファに座り

最後に読むと決めていた本を読んだ

朝日は 爽やかに街のあらゆる汚いものを洗浄して

新しさを与え 彼に届けていた

 

 

彼女は 彼が起きていることを知りつつ

ベッドの上で数を数えることしか出来なかった

今日起こる残酷な出来事が

彼の横をすり抜けることを願いながら

 

 

彼はスーツに着替え コートを羽織り

帽子を被って 朝に洗われた街に出た

風は冷たかったが 彼にとっては心地良く

気持ちよく晴れた空を眺めながら これまでを振り返った

 

 

起こるだろう残酷な出来事が

起きた後の世界で 彼は彼女を見つめていた

泣きはらす彼女の顔を撫で

思い切り抱きしめたくなりつつ ソファに座りながら