No.574 蜘蛛と雲と彼!

 

 

蜘蛛が巣を作るのを見ていた

彼には帰る場所がなかった

いっそのこと 粘ついた糸

絡みついて離れられなくなれれば

 


雲が落ちてくるのを眺めていた

彼には向かう場所もなかった

いっそのこと 重く鈍い音

叩きつけられて動けなくなれれば

 


雨は蜘蛛の巣を洗い落として

蜘蛛は水溜りでぷかぷかと浮かんだ

まるで雲のように流れる様を

彼は じっと 見つめた

 


帰る場所や向かう場所など

ないほうが気が楽ではないかと思った

きっと帰っても歓迎されず

向かっても待つ人はとっくに居なくなっている

 


彼にとっては 水溜りの蜘蛛になって

蒸発して雲になることの方が好みだった

空から降り また登り 空から降りたい

まるで 滑り台で遊ぶ子供のように