No.547 スープ缶の絵のTシャツの男!

 

 

彼はスープ缶の絵のTシャツを着て

何処へ繋がるかわからない行列に並んだ

Tシャツの中の絵は変色しながら

彼にまとわりついて気持ちが悪かった

 


首元を引っ張り 風を送り込んだとしても

張り付いたまま 生地は熱くなっていった

それにしても 行列は全く動かなかった

彼は痺れを切らして 帰りたくなった

 


しかし数分後 美味そうな匂いがして

彼はこの先にラーメン屋か何かがあると思った

腹が鳴って 空腹を実感したとしても

相変わらず Tシャツの中の絵は彼に張り付いた

 


前に並ぶ二人組が 大きな声で笑っていた

孤独を馬鹿にされたように感じて

彼はその二人組の顔を睨むが

振り返りそうになった途端に目を逸らした

 


数十分後 やっと店が見えて来た

特別なことはない 普通の店だった

しかし(匂いで飲食店とは分かるが)何屋なのか分からなかった

彼は期待しつつも 何処か身構えて待っていた

 


数時間後 彼は店の目の前に並んでいた

煩かった二人組は 数分前に店内に入って行った

彼の順番が来て 案内の通り薄暗い廊下を歩くと

何故か シェフたちのいる厨房に辿り着いた

 


「こりゃ良いね! 美味いスープが作れそうだ」と

一人のシェフが言った時 彼は全てを悟った

(誰かの小説で似たものを読んだことがある

 食べに来た人間を 食べてしまう料理屋…)

 


数年後 彼はその店の料理長になった

スープ缶の絵のTシャツは 少しだけ生地が良くなった

もう張り付いてしまうこともないだろう

彼の作ったスープは 誰にも真似が出来ない味がした

 


「料理屋で人間が食べられる?

 そんなことがあるわけないだろう」

彼はスープ缶の絵からスープを取り出して

鍋の中にぶちまけながら言った

 


(ここだけの話

 彼の身長は もう三十センチほどしかない)