No.546 二本の煙草

 

 

スーツが煙草を吸いながら駅に向かった

道端に捨てても 暫く火は消えなかった

通りかかったハイヒールは煙草を踏み

火を消して 数秒見つめた後 駅へと急いだ

 


ランドセルは 消えた煙草を掴んで

良く観察した後 駅へ走った

シルバーカーは曲がった腰を叩きながら

すっかり静まり返った煙草を見て 駅へ歩いた

 


彼は 煙草の捨ててある場所に止まると

それを拾って 駅の近くの喫煙所に捨てた

喫煙所には3人ほど居た

彼も煙草とライターを取り出し 火を点けた

 


太陽はちょうど天辺に来ていた

この時間帯に煙草を咥えていると

ライターを使わなくても

煙が出て来るほどに暑かった

 


日が暮れると 烏が喫煙所にやって来た

灰皿の上にあった彼が捨てに来た煙草を咥え

飛んで行ったが 他の烏が前を横切った瞬間

嘴から 元の捨ててあった場所に落ちて行った

 


辺りが暗くなり スーツが煙草を吸いながら

家へと向かう道で 朝に捨てた煙草を見つけた

口元に近付き 吸う気もなくなり

寂しくないように その煙草の近くに煙草を捨てた