No.93 紫煙

煙草の火

当てた手のひら

むず痒い

穴が空くほど

灰皿代わり


フィルターを

噛み潰すたび

気が狂う

葉っぱを噛めば

正気に戻る


成人に

なる直前は

生きた肺

なった途端に

燻製の肺


日が照った

鉄の熱さで

火を付ける

血の味すると

少し微笑む


栄えてる

街並み立ち見

煙草吸い

右目に染みる

涙が滲む


傘捨てて

ライター擦って

燻らせて

雨に塗れて

気持ち紛れて


暗がりに

動き出すのは

赤い点

近付く気配

冷たい香り