No.576 鳥と彼!

同じ色で同じ大きさの 五階建ての建物が並んでいた 彼はその建物の呼び名を知らないまま 中へ入って探索をした かつて人の居た痕跡があった 状態の良い家具が残る部屋もあった しかし 大体のものは崩れ落ち あとは砂になるだけのようだった 彼は屋上へと上が…

No.575 通せんぼ!

通せんぼされた彼は どうしようか迷って 手を広げた人々の上を越えようとした 痛がる顔で まだ通せんぼの格好で 人々は頭や肩や膝を痛めながら 彼を登らせた 超えた先には さっきよりも多くの人が 通せんぼしながら 彼を睨みつけていた 超えられた人々は 彼…

No.574 蜘蛛と雲と彼!

蜘蛛が巣を作るのを見ていた 彼には帰る場所がなかった いっそのこと 粘ついた糸 絡みついて離れられなくなれれば 雲が落ちてくるのを眺めていた 彼には向かう場所もなかった いっそのこと 重く鈍い音 叩きつけられて動けなくなれれば 雨は蜘蛛の巣を洗い落…

No.573 ノモフォビアに導かれ

液晶の中を漂う 宇宙船に一人 彼は自由気ままな冒険者 そして迷子 緑と青と赤の 惑星を旅してきた 退屈はどこにも見当たらない 緑の星には文字のオブジェが 彼の知らない並び方をして たまに聞こえる大きな声が 空の上でけらけらと笑っていた 青の星にも文字…

No.572 彼の靴!

履き心地の良い靴で 家を飛び出した 3歩進んだところで 彼はつまずいた 顔面がコンクリートに突き刺さり 抜けなくなって 助けを求めた 近所に住む主婦が 彼を見つけて 「今日も精が出るわね」と抜かしやがった 彼は怒りで 言い返したくなったが コンクリート…

No.571 おめでたい彼!

暗く 狭い 洞窟のような ワンルームは 言うほど悪くない 彼にとっては そこが全て 守るべき場所 どれだけ散らかっても 片付けると全て消えてしまいそうで 決まった場所に リモコンを投げる 空のペットボトルも古い雑誌もボールペンも 乱雑に見せかけた 計算…

No.570 280円の旅

彼女は髪を整え 服を着替えた 彼はその間 煙草を吸った 午前10時 目的地は隣の駅 歩いてもそれほどかからない 道を間違えても 全て知っている 駅までの距離を 測るまでもない どうしようもないほどに 晴れた空には 不安なことは 何一つない 140円の切符を 2…

No.569 起きながら居眠り中の彼!

一回分の魂 一回分のジェラシー 臭いがきつい 冗談を解き放ち 彼は思い出し コンビニの袋に 全てを放り捨てて 新しくなった気がした 毎日同じ話 毎日同じ時間に 電車に乗って 揺られて 誰かに怒鳴られて 聞こえないフリ 彼のプライバシー 誰にも見せたくない…

No.568 海中家族旅行

海底を走る最新式の電車があった 皆 息が出来ないということは忘れていた 古い魚雷が うずうずと動き出しそうだった 関係ないが 最新式のマックと古いマックの話をした 彼は その夢の中で 何も疑うことはなく おかしなことなど何もないと感じていた 「向こう…

No.567 知らぬ間に旅する男!

風船を拾った 木にかかっていた 登る時にたくさんの人に見られていたが 彼はこれっぽっちも気にせずに 手を伸ばし しがみ付き 風船を拾った 昨日ツイてなかったおかげで 風船を見つけることが出来た 彼はとても嬉しくて 小躍りしたいのを我慢しながら家に帰…

No.566 ALOHA!

耳が聞こえなくなりそうなほど イヤホンの中で育った果実 彼がこうして 歩くたびに 果汁が溢れて 耳から涙 不安定な視界の中で やけにピントが合うのは なんでもない ただの洋服屋 彼は5000円のアロハシャツを見つける 半端な気持ちでフラッと立ち寄ると 谷…

No565 焼き鳥

芳ばしい香りがして 彼はたまらなくなった こんなにも切ないことがあるのだろうかと 自問自答して 自分が情けなくなった まあいつものことだが 今回は程度が違った 彼はとても死にたくなった 未だ 微かに聞こえる奴の鳴き声で 朝に起きていたことを思い出し…

No564 ドヤ街近くの息子さん

泥だらけで汚い道だった たまにビニール袋や 激しい臭いを放つ物体があった 彼はいつも立ち止まって それを枝で突いたり 箸のようにして摘んで持ち上げたりしていた その日も 相変わらず汚くて仕方がない道を とっとっとっ と 歩いていると 無性に良い匂いが…

No.563 実体のない男

薄い膜だけの彼は笑っている 皮膚はもう無くなり 中身もない 浮かんでいる様は 異様な巨大シャボン玉のよう 彼に笑いかけられた少年たちは逃げて行った 少年たちを追いかけて 風を上手いこと味方にしつつ スピードを上げて突撃するが ぶつかっても跳ね返るだ…

No.562 ブルーハワイと親しげな蝙蝠

彼の身体から 泡と青い色素が溢れ出て ブルーハワイが 浴槽を満たすと 匂いに釣られた蝙蝠が 浴室の窓の隙間から 羨ましそうに 彼の方を見つめていた 湯気に混じってアルコール 彼はひたすら酔っていた ブルーハワイはカクテルの 成り損ないのようだった 夏…

No.561 彼の瞳

彼の瞳には 強さと弱さが混在している 真っ直ぐ見つめているようにも見えるが 頼りなく遠くを見つめているようにも見える そんな彼の瞳に人は魅了され 心を打たれる スクリーンの中で動き回る 言葉を交わしたことのない(言葉すら通じない)他人に 自分を重…

No.560 とても居心地の良いカフェ

ブラックのコーヒーでも 大人になったわけじゃない 彼はお洒落なカフェで アロハシャツを着てニコニコしていた かじった林檎のマークは よく見てみると白いインクだ かちゃかちゃ立てている音は 彼の手の骨がテーブルに当たる音だ アロハシャツがとんでもな…

No.559 柱な男

彼の目の前を 大型トラックが横切った 括り付けられた柱は びくともしない 彼を此処に置いて行った奴らは 此処で彼が反省するとでも思っていたのだろうか 奴らは彼に酷い扱いをしていた 抵抗すれば暴力だって振るった 彼の目蓋の痣を見てみろ まるで 青い月…

No.558 蒸し暑さと闘う男

夜を漂う彼は 蒸し暑さと格闘していた とても長く 苦しい闘いだったが とうとう 彼は蒸し暑さを打ち倒した 経験値はいつもの通り 後で振り込まれるだろう 次に彼は 朝の肌寒さと格闘しようとしたが 朝にも蒸し暑さが参戦することもあり 昨日勝ち越したので …

No.557 正常な彼と隣に住む異常な男

自分を正常だと思っている彼は 他人と自分を比べて 優位に立っていると知れば 攻撃を止めず 自分が優位でなければ その靴を舐め回すのも厭わない 狂った犬だ 彼はそんな生き方をしているせいか 味覚がバカになってしまった 連日ニュースで 「味覚がしなくな…

No.556 目を真っ赤に充血させた彼

砂埃が目に入ってしまい 彼は猛烈に泣きたくなってしまった 泣いたら笑われるので我慢したが 周りの連中はクスクス笑っていた 砂埃を投げつけて 笑った奴らを 泣かせてしまいたくなったが 彼にそんな勇気があるわけがないので 砂を噛んだような顔をしていた …

No.555 memory

彼は煌めくものを見ていた ずっと前に無くしてしまったもの 探しても どこにもなかった それを やっと見つけた 暗がりで瞳を閉じると それを見つけられたので 来る日も来る日も そうして 焼き付けようとした (彼は教室に入り ホワイトボードの前を通った 奴…

No.554 HEAT

夜を睨みつける完璧な瞳 彼は光すらも黒く塗れそうだ 髪をかき上げ 煙草に火を点けた そのまま周りの空気にも火を点けた 彼の周りに円を描き 炎は細い糸のように回った 夜を睨みつけていた瞳は 次は時間を睨みつけていた 時間を移動して 彼は目的地に向かっ…

No.553 ずかずかずかずか

とぼとぼ歩いて煙草を買いに行く とぼとぼとぼとぼ トボコを買いに行く ぷかぷか 灰皿の隣でしゃがみながら ぷかぷかぷかぷか ぷかしている ピンク色のライターが落ちて コンクリートに頭突きをした 今日は何回 物を落としただろう ぼとぼとぼとぼと ぼーっ…

No.552 余白

全て過去形になる その前に 夢と消えてゆく その前に この思いを手紙にしよう 彼はそう考えて 筆を取る 言葉を探しても 出てこない 愛する人など もういない この思いは言葉でなく 彼の脳内で完結する 死んだ蝉の においにつられて 残された僅かな時間を数え…

No.551 beads

ビーズで出来た湖の中 裸の女たちが踊っていた 彼はスーツの中に狂気を忍ばせ その女たちに視線を送っていた シャンパンはいつものように冷え過ぎて グラスと指がくっ付きそうだった あまり持っていても仕方ないので 一気に飲み干して グラスはテーブルに捨…

No.550 真昼の退屈

僕と嫁は出かける準備をしている 嫁の妹と姪っ子二人と一緒にかき氷を食べに行く 昨日借りたブルーレイは置きっぱなしだ 一度観たものなので 観れなくても問題ない 蝉の声が遠くから聞こえる パワフルな日差しがカーテンの向こうで ベランダをうなだれさせよ…

No.549 不死身な彼の話

誰にも教えちゃいけねえと言われたが 言いたくてたまらない話を聞いたんだ 誰にも言わないと約束だけすれば良い それを破ったかどうかなんて 気にしなければ良い 彼はサングラスを付けていた そりゃあ高そうな服を着ていたらしい しかし 吹き溜りの酒場に酒…

No.548 気難しい彼はようやく報われた

彼に何を言っても通用しなかった 彼を慕う人も やがて彼に何も言わなくなった 一人の時間を愛するあまり 周りの人々は 彼に恐れを抱くようになった 毛針を作る時も 筆を持ちキャンバスを塗る時も 彼の頭の片隅には 体育座りをした少年がいた それは過去の彼…

No.547 スープ缶の絵のTシャツの男!

彼はスープ缶の絵のTシャツを着て 何処へ繋がるかわからない行列に並んだ Tシャツの中の絵は変色しながら 彼にまとわりついて気持ちが悪かった 首元を引っ張り 風を送り込んだとしても 張り付いたまま 生地は熱くなっていった それにしても 行列は全く動かな…