2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

No.480 怪獣の王様!!

プラスチックで出来た小さなヘルメットで 5歳の彼はカルト映画のヒーローを熱演した 死神に似ていて 怪人とも言える 崩壊しそうなビルを 両手で支える力持ちだ 怪獣は彼の友達で 本当の敵は人間だ (親切そうに見えても 誰も信じちゃいけないよ!) 強烈なキ…

No.479 生まれ変わった彼?

鏡の中を見つめると 痩せこけた男が一人 彼は最初 自分のものだと気が付かなかった 用意された髭剃りで 無精髭を剃った 鏡の中の男は 少しだけマシに見えた 用意された洋服を着ると 更にまともに見えた 街にも溶け込めそうだ 安心して溜息が出た ふと よぎっ…

No.478 綴じた数km

かかとの潰れた靴 ぼろぼろの靴べら ぐらぐら揺れる靴箱 砂まみれの玄関 ドア 冷たい金属 何も入っていないポスト 鍵が入った小物入れ アロマストーン 外の階段 重りにミニカーが入ったメモスタンド 年季の入ったマンション 埃だらけの壁 広告しか入っていな…

No.477 15分弱

ステンレスに映った自分の顔が歪んで 笑っていないのに笑っているように見えた そんな時 彼はこう思った(全て無意味だ) あと3本の煙草も あと3回分のオイルも オリーブオイルが反射して 鳥の形をした そのまま羽ばたいてしまえば良かった コーヒー豆の入っ…

No.476 パーソナルスペース

些細な音に敏感な彼は 箸が皿に擦れる音を気にした 後ろでガタガタ揺れるドアを気にして 冷蔵庫の唸り声を気にした やがて 彼にとって世の中の全てが 巨大な蓄音器のようになった 目に入る色も音に聞こえて 嗅覚や味覚さえも音に聞こえた 胡瓜の緑 青臭い音…

No.475 涙を拭いて

(雨だから気にならない) 油断していた彼は 大いに笑うように 大いに泣きじゃくった 通行人は彼を不審者だと思ってしまったが 彼は通行人を天使か何かだと思っていた 騒がしい夜は終わってしまった そして悲しみは彼の重りになってしまった 強がってはなら…

No.474 強い彼?

彼は煙草を吸っていた いつも同じような曲が流れる部屋の中で 時代遅れな方法で 色々な詩を書こうとしていた 彼の周りにいる人が何と言ったとしても それは無駄なことだった 彼はずっと ずっと 詩を書こうとし続けていた 煙る部屋の空気を入れ替えることもな…

No.473 弱い彼!

傷付きやすい彼は気にしないようにすればするほど 気にしすぎてしまい さらに傷を増やしてゆく 被害妄想では説明が付かない誰かの本音を まともに受け止めて いつまでも煮込んでいる 頭の中の鍋があると想像して欲しい その鍋の中には誰かの言葉が入っている…

No.472 観察者

一人目は店内を見回した後 店員に文句を言っていた ほとんど何を言っているかわからなかったが 激しく怒っていることだけは伝わってきたので (おそらくこの店の関係者だろう)と彼は思った 二人目は店内に入ろうとしていたが 中の列を見て 諦めて帰って行っ…

No.471 男の友人

南口を出た男は「随分変わったな」と言った 男の友人は「前からこんなだよ」と言った 横を通り過ぎる女たちは男の話をしていた 南口を出た男のことではないと分かりつつ 南口を出た男は耳をそばだてた 次の日 男の友人は地元の女友達と遊んでいた 南口を出た…

No.470 「彼」

___酔い潰れた後の街並みは彼に優しかった ぐわんと揺れている光は道標になった 彼の手を引く女が どこの店へ連れて行こうが 彼には記憶は残らない 財布の中も同じく 次の日にパソコンの前に座っていると 二日酔いのせいか画面が何重にも見えた 彼が「早退す…

No.469 彼はゼリー!

ゼリー状の彼は いつも羨んでいた 形の崩れない焼き菓子のような奴らを 掬われた半身が 誰かに食べられて 「何もかもお仕舞いだ」と喚いている 彼は扇風機の前で 自分の声を揺らしてみた 声は彼よりも固まるのが早かった カーテンの前に落ちた その声を拾い…

No.468 紫色の薬の男!

彼は婆ちゃんに言われて 紅茶を入れていた 紫色の薬を 花柄のカップにだけ入れて 苦しそうに咳をする 婆ちゃんは紅茶を飲んで 「いつもありがとうね」と言って西部劇を観ていた 彼は爺ちゃんに言われて 鉄砲を磨いていた 紫色の薬を 汚くなったタオルに付け…

No.467 0

彼は鎖で身体を縛られ 拷問を受けていた 周りには水が何リットルも積まれていた 彼はびしょびしょの髪の間から睨んだ 銀色の男は サングラスをかけていた 「0になるまで待ってやる」 タイマーを合わせ 銀色の男は部屋を出て行った 「何も言うことはない」彼…

No.466 中に居る彼!

悲しみの悪戯も 彼にとってはもう どうでも良いような 清々しい顔をしていた 悟り切って 涙を流すことすら忘れて 一番不幸な時でさえも 幸せと錯覚していた 彼はちっぽけで退屈な日々の中 現実より少し下の暗闇の中 彼は丸括弧の中 舌打ちまみれの会社の中 …

No.465 ターコイズ・ターコイズ

ターコイズで出来た 髑髏のネックレス 彼はそいつに 精神を捧げている 前髪が抜けるほどに上がり 額に血管が浮き出る バイクはスピードを増して 増して 増していく 彼が通ると店や家々のガラスが割れる ぶら下がるターコイズの髑髏は笑っている 近くを歩く人…

No.464 サッシの男!

サッシで寛ぐ蝙蝠とお茶を飲んでいた彼 後から来た蝿どものせいで追い出された その後すぐに そこの住人が窓を閉めて 蝙蝠と蝿は勢い良く押しつぶされた 仲の良かった蝙蝠へは悲しみの言葉を 彼を追い出した蝿には「ザマアミロ」と 蝙蝠と過ごした家から 彼…

No.463 初めて魔法を使えた彼!

灰色の空を一瞬にして虹色に変えた先生が 彼に言った言葉は「なんでもできる」だった それから彼は帰った後も杖を振り続けた 蛙が鳩になって 窓から飛び出して行った 道ゆく人に挨拶をする時 彼は考えた (あのぼうしを もっとオシャレにしよう!) 杖を振る…

No.462 彼は今 君と同じステージの上で!

眩い光の中 君は揺らめいて 激しい音の洪水 立ち尽くす彼 君を見ながら 彼は絶望の発作で 心臓が止まりそうになっていた もし彼にほんの少し勇気があったら 君の手をひいて そこを出て行った もし彼に煌びやかな魅力があったら 君の目をひいて そこを出て行…

No.461 エメラルド・グリーンの空洞

一人の男が森を走っていた 森は暗く 冷たい空気を発して 彼の肺を押し潰そうとしていた 必死になって抵抗するが 足がもつれた 大きく浮き出た木の根に顔面を打ち 彼は痛みでのたうち回った 木の根は彼に激怒して 身体を包み 地面の中に引きずり込もうと 蠢い…

No.460 彼の一番の友人

悩みが少なそうと言われる彼に ストレスがどんどん溜まっていった 吐き出せない愚痴を書き込んだノートが もう天井まで着いてしまいそうだ そのノートを彼の友人が読んでいた 酒を飲みつつ ページをめくり続けた 彼は「そんな物読んでどうするんだ?」と聞い…

No.459 彼と悪魔

彼は疑うことを知らなかった 何度も欺かれて 金はほとんど残っていなかった 今日も彼を必要とする悪魔がやって来て 彼に金をせびり 「ない」と言っても帰らなかった 悪魔は彼の部屋に入り あたりを見回した 彼が一生懸命働いて買った 唯一の宝を見つけた 「…

No.458 パティスリーなんて!

外側だけをコーティングされた 甘そうで美味しそうな言葉たちが 小綺麗なショーケースに並ばされ 注文されるのを待っている それを食った人は たちまち苛立っていく 中に隠されたスパイスが 腹の底から効いてくる それを食った別の人は 悲しくて泣いている …