No.501 (6/22 8:28頃)

 

 

電車は 彼に目掛けて加速した

どこで間違ったのだろうか?

そう考えたとしても もう遅すぎた

背中に残る 大量の手形の重さを感じた

 


まず運転席のガラスに身体が張り付いた

そのまま数メートル 勢いに任せて進んだ

その時は そのまま次の駅まで行けると思ったが

吸い込まれるように 凶暴な車輪の音の方へ

 


彼が 下へ下へと落ちていって

線路にもぶつかりそうになった時 

これから引き裂かれるであろう手足を

心配することだけが 彼に出来ることだ

 


それから 彼は回転させられながら

車輪たちに踏み潰されて

どちらが前で 後ろかもわからなくなって

雑巾を絞った後のようになった

 


でも その時にはまだ意識があった

彼は背中がどこにあるかを探し当てて

ぶつ切りになった脳を手繰り寄せて

無数の手形を残した奴らを恨むのだ

 


そして 彼の存在が霞んでいき

空だか地面だかわからない場所を

目だか耳だかわからない部位から

羨ましそうに睨みながら 

 


電車が止まるとともに 完全に無くなる

彼の意識も 彼の身体も 魂も精神も心も

何処かへ飛んでゆき 広がっていく

誰かの元へなど 辿り着くはずはない

 


彼は 通勤や通学をしている奴らから

(おそらく 彼の背中の手形と一致するだろう)

口にするまでもない罵詈雑言を

空気に乗せて聞かされ続けるだろう