No.528 フェニックス

 

 

部屋の空気に舞う埃を握りしめて

カーテンの隙間から入る太陽の光を見ていた

また朝がやって来てしまった

暗闇に隠れることは出来ない

 


(時が流れると 何もかもがぼやけていった)

そのことをひしひしと感じながら

外を走る車のタイヤの音を聞いて

小鳥の囀りを聞いて 冷蔵庫の呼吸を聞いた

 


あと何年 残されているだろうか

目的は達成されるのだろうか

忙しく動き続ける周りを見て

頭の中はぼうっと 考えることをやめていった

 


石を投げつけて 硝子を割り

カーテンをびりびりと破り捨てたとしても

外の空気と 部屋の空気は交わらない

束の間 同化し 通り過ぎるだけだ

 


壁は至る所にあり いつも額をぶつけた

すると 何度もぶつけたくなった

頭の中にあるものを全てぶちまければ

その光景を 誰かが写真にするだろうか

 


カーテンを開くと 埃は見えなくなって

手を開くと 小さな不死鳥の雛が居た

炎と灰は ぬるま湯のような温度だった

暗闇であれば もう少し綺麗に見えた

 


朝は 何度も生まれ変わる不死鳥のようだ

雛は瞬く間に成長し 数分後には飛んで行った

太陽の方向へ ひたすら真っ直ぐ

雲を突き抜ける時だけ その光は揺れた

 


太陽にたどり着いた不死鳥は

最早 部屋のことなど覚えていないだろう

時間は同じ速度で過ぎていくというのに

永遠に近い間 手のひらの温もりがあった気がした

 


そんなことは忘れてしまい

酒を飲んで 休日を潰そう

頭の中にあるものを溶かして

耳の穴から捻り出すかのように

 


捻り出たものを粘土のように捏ねて

不死鳥の形にすれば 明日には部屋の埃になる

生まれ変わり続ける毎日が 脱皮する蛇のように

大きくなることは決してなく 同じ大きさのままで

 


そこにある

 


酒の話をしてみても 本当は下戸で

麻痺できる時間は 頭痛薬を舌で溶かす間だけで

壁は今日も 至る所にあり

頭は腫れ上がって 破裂したがっている