No.512 水平線男!

 

 

砂浜と海の間に立って

彼は水平線を眺めていた

小さな船が見えて

その上を海鳥が飛んでいた

 


朝から夕方までそうして

夜になると同時に家に帰ったら

ゴミだらけの部屋には

彼が座る場所がなかった

 


家でゆったりと過ごす時も

彼は水平線を探すように立っていた

壁の下半分は黄ばんでいて

それが水平線だと思い込んでいた

 


蛍光灯が光を途絶えさせて

最後の悲鳴を上げて 周りを暗闇が包んでも

彼は いつものこと と驚きもせずに

水平線を探すことをやめなかった

 


朝が訪れて 雀が家の周りを飛んで

彼に向かって罵詈雑言のような囀りを投げた

その一つ一つにしっかりと悲しみながら

彼は再び見え始めた黄ばんだ水平線を眺めた

 


それから 朝食に落ちていたパンを食べて

靴を履き ドアを開けて 砂浜へと向かった

砂浜と海の間は いつもひんやりとしていた

彼の心の温度も いつもひんやりとしていた

 


水平線に 傘をさして歩く女が見えた

彼は懐かしくてたまらない気持ちになった

頬には 押し出された何かが流れていた

その何かが この海をまた大きくさせた