No.495 軽やかな彼

 

 

バスケットボールをドリブルするように

交互に手を前に出し 上下に動かしながら

弾むような足取りで コンクリートの上を歩く

彼は 昨日大切なものを亡くしたばかりだ

 


ヘッドホンで塞いだ耳が 暑さで溶けてしまえば

二度と音楽が途切れることはないのだろうか

そんなことを考えながら ジタバタと歩いてゆき

彼は目的のない旅を楽しむことにしていた

 


音楽は 高い声の男が 何か大切なことを歌った

意味がわからなくても 彼にとって意味があった

何が起こったかなんて 彼には関係がなかったが

今ある 暑さや空腹よりも身近なものに感じた

 


デパートに入って 大きなショッピングカートを

リズミカルに押して 目に入ったものを全て入れ

金など持っていなかったので Uターンをして

全ての品物を棚へと戻して デパートを出た

 


昨日亡くした 大切なもののことを考えないよう

細心の注意を払いながら 明るい場所へ向かった

決して辿り着くことはないと分かっていても

バスケットボールをドリブルするように